Googleマップを騙した幻の島

積極的に意見交換するゴリラになりたい。

2005年にGoogleマップが登場した。
ご存知だとは思うが、Googleマップは目的地までの最短距離や手段別の経路、目的地までかかる時間など、地図上のありとあらゆる情報を詳細に提供してくれる。
初めての土地でも端末にこの地図さえダウンロードされていれば道に迷う心配もない。

ところで、地図が現実世界を正しく描写したのは西暦何年頃だろう?

コロンブスがアメリカ大陸を発見したのが1492年。
1582年に没した織田信長にルイス・フロイスが地球儀を献上していることを考えると、16世紀には大方の島は発見されていた。

また、1821年に伊能忠敬が日本地図を完成させたことから、19世紀には現実世界の細部まで地図は描写していたのではないか、などと漠然と推測できる。

ところが、1876年に捕鯨船がニューカレドニア島から400㎞離れたところに新しい島を発見している。

19世紀後半になっても世界はまだ発見され尽くしていなかったのだ!

新たに発見された島はサンディ島と命名され、Googleマップにもその姿が確認された。
しかし、真に驚くべき事態が2012年に発覚する。

なんと、オーストラリアの海洋調査チームの報告により、地図上に記されたサンディ島が存在しないことが判明したのだ。

Googleマップの誕生が2005年。
サンディ島が地図上から消されたのが2012年。
なぜGoogleマップに7年間も存在しない島が載っていたのだろうか?

古い地図のもつ価値

エドワード・ブルック=ヒッチングの著書 ”The Phantom Atlas” は、かつて実在したと信じられている島や川、大陸などが描かれた古い地図がまとめられている。

上述したサンディ島もそのうちのひとつだ。

どうしてひとは存在しない島が存在していると信じてしまったのだろう。
しかも、100年以上もの長い間。

この理由こそがまさに ”The Phantom Atlas” の邦題にある。

つまり、地図に描かれていたからである。

かつて人類は、現実には存在しないが地図上に存在する島を探して多くの時間を費やした。
まさに世界をまどわせた地図だ。

正確な描写ではない過去の地図に何の意味があるのか?
確かに、間違った地図には地図としての価値はないかもしれない
しかし視点を変えれば別の価値に気付けるに違いない。

間違った地図に描かれているのは、その当時にひとびとが見たかった幻想だ。

オーストラリア内陸部の水源

下図は1830年に発行されたオーストラリアの地図だ。
なにかおかしなところはないだろうか?

世界をまどわせた地図より

ぱっと見ただけでは大きな違和感を抱かないかもしれない。
では続けて、実際のオーストラリアの地図を見てほしい。

現代のオーストラリア地図

……
*正確には内海

1830年の地図では、オーストラリアの内陸に大きな水源が広がっているのに対し、現代の地図には水源はない。
当然、現実世界のオーストラリア内陸部にも大きな水源などない。

笑ってしまうぐらい豪快に間違っている地図だ。

しかし、水源こそなかったものの1830年の地図と現代の地図を比較しても国の輪郭はほとんど変わらないことに注視してほしい。

ふたつの地図の重ね合わせ

どうしてこれほど精度の高い地図に、ありもしない水源が描かれてしまったのだろう?

オーストラリアがヨーロッパ人(ジェームズ・クック 英)に発見されたのは1770年のことである。

当初、オーストラリアは囚人の島流し先となっていた。
後にイギリスは植民地政策拡大のため、未踏だった内陸部の探索に踏み出した。

当時のイギリス人は、オーストラリアのような大きな島をひとつの大陸のようなものだと考えていた。
そして、他の大陸と同じであれば、内陸部から流れる川は山につながっており、そこから別の川へつながっていることを彼らは経験から知っていた。

広大なオーストラリアの中心には緑豊かな楽園が広がっているという希望的観測に基づいて描かれたために、ありもしない水源がオーストラリア内陸部に堂々と登場したのだ。

現実と幻想が混在する面白さ

この他に、平面状の地球図も紹介されている。なんと発行されたのは1893年だ。

信長が地球儀を受け取ったのが16世紀であることを考えれば、信じられないくらい時代錯誤の地図であると言わざるを得ない。

幻想の大陸として最も名高いアトランティスは我々を長年魅了してやまない。
(プラトンがアトランティスについて記述したのが紀元前360年……!)

もちろん、アトランティスが描かれた世界地図も存在するし、当然この本に掲載されている。

まさに見たいものが描かれた地図たちだ。

それぞれの地図を見ればわかるのだが、地図に描かれたすべてが荒唐無稽な空想の産物というわけではなく、細部はむしろ現実世界を忠実に描写しているものが多い。

つまり、現実世界のなかにひとびとが見ようとした幻想がリアルな形を持って描かれている。

”世界をまどわせた地図” は、現実と幻想が混在するロマンあふれる世界の特集なのだ。

とはいえ、そのロマンに2012年まで騙されていたことを思い出していただきたい。
現実と幻想が混在していることを前提として見れば面白いが、それを知らなかった人々にはたまったものではない。

なにしろ ”現実に存在しないもの” を求めて長い航路に旅出ているのだ。
求めているお宝は見つかるわけがなく、実際に本書にはあるはずのないものを探し求めた悲劇がいくつも書かれている。

しかし、いくつもの悲劇を乗り越えて、現代のGoogleマップが完成した。
アニメワンピースの主題歌にもあったフレーズだ。

埃かぶってた宝の地図も確かめたのなら伝説じゃない。

きただにひろし「ウィーアー!」

間違いが発覚することもまた前進である。

では、また。