動物が好きだ。
デートコースとして提案すると毎回断られるが動物園に行くのも好きだ。
なかでも熊が一番好きだ。
英語とロシア語で熊の動画を検索するぐらい好きだ。一度は猟師になろうかと思ったぐらい熊が好きなのだが、今日は象について書く。
たまたま手にとった本がよくわからない象の本だったので、象について書く。
アジア-大切にされた象-
象と聞いたときに思い浮かべるイメージは、大きくて、力強く、なにかほのぼのとした大きな愛情のようなものだ。
事実、インドの俗信の世界では象はしばし雲と同一視される。
ちなみにサンスクリット語の「ナーガ」は蛇のほかに、象と雲を意味する。
インドの象といえば商業の神ガネーシャも有名だ。
ガネーシャの存在は水野忠著「夢をかなえるゾウ」で知ったひとも多いのではないだろうか。
ラオスやミャンマーでは白い象は比類なく尊いものと神聖視され、人間の中で際立って賢いものは、ひとに生まれ変わる直前に白象の段階を経たと信じられている。
森で発見された白象は人間によって丁重に捕獲され、宮中で金銀宝石に囲まれる一生を過ごす。
また、白象はその神聖さから裁きの正当性を体現する生物とされ、死刑囚を踏み潰すためにも用いられた。
以上のように象はアジア諸国の宗教において特別な動物だった。
一方で、同じく象が生息するアフリカは、アジアと比較すると象に対して冷淡であるとロベール・ド・ロールは述べる。
アフリカ-殺す対象としての象-
どういうわけか、アフリカでは象がほかの動物を圧して文学や絵画に現れたり、崇拝や恐れの対象にはならなかった。
アジアでは至るところで象が飼育されたのに対して、アフリカでは象を飼育したのもヌビアやエチオピア周辺だけであり、その習慣もこれらの地域から象が姿を消すとともに廃れた。
象が崇拝や恐れの対象にならなかったとは言え、とるにたらない動物と見なされたわけではない。
事実、アフリカのピグミー族、ファン族の一部では象を人格化している。
神格化ではない…。
彼らは、長老や力のあるものが死ぬと象に生まれ変わると信じている。
それもただの象ではなく、群れを率いるリーダー象になる。
群れのうち数頭を殺しても祟られないように、生まれ変わった象を敬わなければいけない。
あくまでも象を「殺す対象」として考えられている。
アフリカとアジアにおける象への意識の違いはなにからうまれているのか。
ロベール・ド・ロールの主張は独特である。
トラとライオンの生息地の違いだ。
アジアにはライオンよりも獰猛なトラが人間の生活圏内にいた。
この地域の人びとにとって、象は恐ろしいトラを追い払ってくれる存在だった。
サンスクリット語の叙事詩には、象に対する虎の恐怖をテーマにした詩もあるほどだ。
実際にトラ狩りでは象が使役されてひとの手助けをしている。
戦闘用大型哺乳類-象-
トラ狩りに用いられた象はまもなくその怪力を認められて戦争にも駆り出された。
戦に象を駆り出したもっとも有名な例はポエニ戦争におけるハンニバルのアルプス越えだろう。
アジア諸国(ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナム、中国)でも戦闘用動物として象の重要性が強調されている。
しかし、機動力の低さ・コストパフォーマンスの悪さ(ラクダの3倍の荷物を運べるが、6倍の食欲をもつ)・的の大きさなどから戦象の限界は早いうちに認識された。
戦象は、キングダムでも言及されていたように、象を見たことがない相手に対して有効な初見殺しではあるが、象がパニックを起こすと象使いはなすすべがなくなり、おとなしく殺されるしかない……。
トラ狩りにも駆り出された象を、犬や馬のように戦闘用に調教できなかったのはなぜか。
これを理解するためには犬と馬が家畜化できたのに対して、象は家畜化されなかったということを押さえる必要がある。
家畜になれなかった象
象が家畜ではないと聞くと、その主張は間違っているように感じるかもしれない。
タイやインドに行けば、ラクダや馬と同じように、象に乗って移動するひとを日常的に見ることできる。
そのうえ、象は器用なので鼻先で筆を持って絵も描ける。
これほど訓練される象が家畜ではないというのは一体どういうことか。
歴史学者ジャレド・ダイアモンドによると「家畜とは、人間の役に立つように食料や交配をコントロールし、選抜的に繁殖させて、野生の原種から作り出した動物」である。
つまり、動物が家畜化されていく過程で、人間による品種改良がされる。
象は、人間によって飼い慣らされた使役動物ではあるが、品種改良はされていない。
使役化までできたのだから、家畜化することで戦闘用としてさらに優れた品種に改良できる可能性は高い。
しかし、実際問題として象のように成長に時間がかかりすぎる動物は家畜化する意味があまりない。
一人前の大きさになるまで15年も待たなければいけない動物を飼育しようと考える牧場主がいるだろうか。
*参考までに、象は1日あたり200㎏の餌を必要とし、100ℓ以上の水を飲む。
小象を育てるより、成長した野生の象を捕まえて飼い慣らしたほうが安上がりであることは自明の理であり、アジアでは実際にそうしている。
思いがけず象について多くを学べたが、象を語るのであれば象牙の密猟問題を避けることは出来ない……のだが、長くなってしまったので別の機会にさせてほしい。
もしも象牙問題に興味がある人がいれば三浦英之著「牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って」を推奨する。
本書では象牙の密猟を促進させているのは日本だというショッキングな事実が語られている。
興味のないもの、関係のないことだと割り切っているその態度こそが、問題を重大化させている場合がある。
日常生活に役に立たない本を読む利点は、こういうことに気付くきっかけを与えてくれることだ。
では、また。